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院長

点眼

ある日のこなり眼科の診察室にて

「あれAさん、今日は眼圧がいつもより高いですよ。どうしたんだろう?」

「えへへ、実は昨夜目薬をさすの忘れて寝ちゃった」

「ああそれでか」

また別の日、定期的に通うBさんとの会話

「Bさん、ではいつもの目薬を2本出しておきますね」

「今日はいいです。まだ2本手をつけていないのが余っているので」

「ん?おかしいなあ。1カ月で2本のペースで使っているのに」

「最近目薬をさすのサボッちゃってて」

「え~ひどい」

多くの患者さまは、ちゃんと指示通りに処方した薬を使っていただいていますが、中には勝手に止めたり忘れている方もいます。

 点眼薬に限らず内服薬なども自己判断で飲む薬と飲まない薬を選り分けたり、中断したりすることが社会問題になっています。何の理由もなしに処方される薬は1つもなく、どの薬にもそれぞれ使う根拠があります。それを指示通りに使用しないのは治療効果を弱めるばかりではなく、場合によっては症状を悪化させることにもつながりかねません。

「私目薬をさすのが下手でね、いつも目に入らなくて頬っぺたに垂れちゃうのよ。だから何回もさしているうちに薬がどんどん減っちゃって途中でなくなっちゃうの」

「そういう時は仰向けになってさす方がうまく目に入りますよ」

首の固くなったご高齢の患者さまは上を向いて目薬をさすのもひと苦労です。

「手に力が入らなくてうまく1滴が落とせないんです」

「そんな方にはこんな点眼補助具もありますよ」

点眼ボトルをうまく押せない人向けに、軽い力でも押せる補助具を無償で提供している製薬メーカーもあります。

 でも目薬を自分でさすという行為自体が、実はなかなか難易度が高いのではないかと常々思っていました。もっと簡単で確実に目の中に薬を入れる方法があれば、より治療効果を高めることができるはずと考える訳です。

点眼方式の目薬の歴史は日本では19世紀末に遡る、とウィキペディアに書いてあります。100年以上に渡り薬のしずくを目に滴下してきたのです。でもそれは確実な方法とはいえないというのが僕の出した結論です。より確かに目薬を入れるためには点眼じゃダメだ。何かほかにいい方法がきっとあるハズです。そこで確実性を上げるための条件をいくつかピックアップしてみました。

① 誰でも楽に目に入れられること

② 決して忘れないこと

③ 今よりコストがかからないこと

 う~ん、条件を挙げてはみたものの、①と③はともかく②は難しいなあ。眼科を受診される患者さまの平均年齢は高く覚えておくこと自体が大変。歯磨きのようにすっかり習慣づいてしまえばどうということもないのですが。どうしたものでしょう。 診察を受けて処方箋を受け取り、調剤薬局で購入して家に帰って袋から取り出して決まった回数を点眼する。まずこの一連の流れが煩雑なのがいけません。

そして考えましたよ僕は。目薬は自宅で使うのではなく、受診したクリニックで入れればいいのです。1日に何度もクリニックを訪れて薬を入れるのは現実的ではないので、使用回数がうんと少なくて済むような薬を開発すればいいのです。例えば1週間に1度でOKとか。「じゃあ点眼しましょうね、ハイ終わり。1週間後にまた診せて下さいね」家に帰っても自分でする治療は何もなし。これなら忘れる心配はありません。でもこの方法だとどうしてもあっという間に薬が涙で希釈され、涙とともに鼻の方へ排出されてしまうため長時間目に効かせるのが難しいのです。

 そこで全く新しい薬の投与方法を考案しました。薬はソフトコンタクトレンズのような、丸くてごく薄い透明なフィルムのような形状です。フィルムの基本成分は企業秘密ですが、この中に薬を染み込ませてあるのです。3種類の薬まではその組み合わせによらず1枚のフィルムに一緒に溶け込ませることができます。これを黒目(角膜)の上に載せておくとゆっくりとフィルムと共に薬が涙に溶け出し、完全に溶けてなくなるまでの間じわじわと眼に作用し続けます。フィルムの厚さや構成成分を変化させることで最長1ヶ月間効果を持続させることに成功しました。これからは例えば1カ月に1度クリニックを受診し、そこでフィルムを載せてもらえば診察と治療が完結するようになります。さし忘れたり、どこかに紛失したり、不潔にして使えなくなったり、複数の目薬をさす時にその間隔を5分開けるために時計とにらめっこする必要もなくなるのです。

 クオリティオブライフ(QOL)という言葉があります。患者さまのQOLを劇的に改善し、さらに治療効果も飛躍的に向上することになります。しかも医療費の無駄を大幅に減らすことにもつながると、お役所からも褒められちゃいました。点眼の場合、さした1滴の半分は外に溢れるといわれており、どんなに真面目にさしてもボトルの半分は捨てているようなものだったからです。フィルムだと眼の外にこぼれ出る薬はありません。100パーセント使い切れます。こんな夢のような眼科医療の大変革がもう間もなく起きます。楽しみにしていてくださいね、皆さま。

 フィルムの製造に関して僕は世界中で特許を取得し、某国の某大手製薬メーカーにその特許を売却しました。近々そのメーカーから第1弾の薬が発売されます。僕は各地の講演会等でその使用方法を眼科医に伝授するため慌ただしい日々を過ごしていますが、こなり眼科でも導入しますので、どうぞご期待下さい。正式な日程は新年度からですから4月1日ですね。ん? それってもしかして・・

 ピンポーン、大正解! 4月1日はエイプリールフールでしたぁ。今回の話も全くのデタラメ、大ウソですね。もはや誰も引っかからないですかね。いひひ、それでいいんです。何事も疑ってかかる慎重さが大事なのですね。「またいつもの大ボラが始まったよ小成先生」くらいに読み飛ばした人は安心です。逆に真に受けちゃった人はかなり心配。そんなあなたはおかしな詐欺などに遭わないように、くれぐれも気をつけてね。ちゃんちゃん。


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院長コメント

4年前に書いたものですが、今も何も状況は変わっていないですね。複数の点眼を指示通りに毎日さすという行為が高齢者はもちろんのこと、若い人にとっても結構大変なことなのです。内服薬などは複数の錠剤が1回分ずつ分包されていて、いっぺんに丸呑みすることも可能かもしれませんが、点眼はそれができません。同時にさしても外に溢れる点眼が増えるだけで薬効が期待できません。1種類ずつさしては時間を置く、というのは効率も悪いですよねえ。

近年は『配合剤』といい、2種類の点眼が1本のボトルになってものも出てきています。近いうちに3種類が1つになってものも出てくるでしょう。もう一息なのです。あとは投与法を変えるだけ。是非誰か開発してください。ひょっとしてノーベル賞ものかも(本当かよ)。

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